特別
二眼レフカメラというものをご存じだろうか。
レンズが上下に二つ並んだ、独特の形をしたカメラだ。下のレンズで撮影し、上のレンズで構図を確認する。
今のデジタルカメラの感覚からすると、ずいぶんゆったりとした撮り方になる。
私の知り合いに、ずっと二眼レフを使い続けてこられた方がいる。
写真館を営んでおられるので、ご自分のカメラなど店にいくらでもおありだったはずだ。
それでも生涯、あの一台の二眼レフだけは手放さずにおられる。
ちょっとした訳があると、いつだか伺ったことがある。
まだお若い頃の話だそうだ。
奥様と二人で、九州の海沿いの小さな町を、初めて訪れた旅先のこと。
ほんの小さな鳥居の前で、夕暮れの海をぼんやり眺めておられたところに
一人のご老人が、ふと声をかけてこられた。
「これからは、若いあなたが使ってください」
半ば押し付けるように、二眼レフを差し出されたという。
あの方はそれからずっと、その一台で、何百枚もの写真を撮ってこられた。
あの店に飾られた一枚も、同じカメラで、同じ旅先で撮られたものだそうだ。
人から譲り受けたものの方が、なぜか大事に思える。
その品に、その人の想いや存在そのものが宿っているからだろう。
古い日本人はこれを「付喪神」と呼んだ。長く大切にされた道具には、魂が宿るのだという。
あの二眼レフももはや単なる道具ではなく、そういう類のものなのだろうと、私は思っている。